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この文章は,『Anthropological Letters第6巻1号 (2017年12月発行) に寄稿したものです.人類学若手の会の許可を得て,こちらに転載しました.

蔦谷匠. 2017. フォーラム「研究の方法論」—6— 懇親会. Anthropological Letters 5:8–9.


フォーラム「研究の方法論」—6— 懇親会

研究の方法論について、ほかの人のやり方を知りたいなと思い、フォーラムというかたちで連載企画をはじめてみました。論文の書き方、文献管理、図の作り方、学会発表のコツ、モチベーションの維持といった、研究という営みの重要なプロセス (研究内容のような成果でなく) について紹介していただきたいなと思います。というのも、研究者として仕事をつづけていくうえでもっとも大切とも言えるところなのに、こうした方法論を体系的に学ぶ場は、日本の高等教育では少ないと思うからです。ほかの人の方法を知ることで自分の方法を精錬させられますし、自分の方法論を言語化することで新しい発見があるかもしれません。


はじめに

学会や研究会が終わった後には懇親会が開かれることが多いようです。是非はともかくとして、懇親会は、新たな研究プロジェクトを立ち上げるきっかけや、非公式な情報交換の場を提供してくれるため、学会や研究会の本体と同程度に重要と言われたりすることもあるほど! そんな懇親会ですが、ひとつ頭の痛い問題があります。

懇親会をどこでどのように開催するかを考えてまとめる幹事の役割は、若手に任されることが多いのです。参加者の数をとりまとめたり、慣れない土地で良さそうなお店を探したり…。言ってしまえば「雑用」ではありますが、せっかくするなら、良い雰囲気とおいしい食べ物を提供して参加者の親交が深まるようにしたいですし、なにより自分も楽しい時間を過ごしたいものです。今回は、懇親会の幹事を滞りなく務めるための方法論を取り上げます。


良いお店を探し出す嗅覚

学会が遠隔地で開催される場合、慣れない土地でお店探しをすることになります。そのようなとき、真っ先にするべきことは、その土地をよく知る人に事情を尋ねることです。学会や研究会は大学などの研究機関で開催されることが多いため、そうした機関の卒業生や、数年勤めていた人が周りにいれば、しめたものです。だいたいの人数と期待する条件 (例: 硬めでオシャレ感を重視、安くておいしければ汚くても構わない、日本酒にうるさい人がいる!) を伝えて、適したお店がないか尋ねてみましょう。そうした土地には、研究機関の人たちが「行きつけ」にするお店がいくつかあることが常であり、きっとハズレのない選択肢を教えてくれるはず。教える側からしても、知り合いの研究者がそうした「行きつけ」で懇親会を開いてくれて、後日感想を伝えてくれたりなんかすれば、けっこううれしく思うものなのです。

しかし、周りにその土地をよく知る人がいなかったらどうしましょう…? 私たちはデジタルネイティブたる若手研究者、そのような場合にはインターネットをフル活用しましょう。まずするべきは、その土地の名産を調べることです。日本酒や焼酎が有名、B級グルメを売り出し中、ある食材の江戸時代からの名産地、などなど。そうした名産に沿ったチョイスで懇親会をプロデュースすれば、こいつはできる…と思われること間違いなしです。だって学会や研究会って、会場に缶詰めになることが多いじゃないですか。せっかく名産があっても、なかなか食べに行ける時間がないんです。限られた回数の食事を無駄にせず、その土地の特徴を味わう機会を模索してみましょう。

だいたいの方向性が決まったとして、いちばん悩むのがお店決めです。「その土地の名前 居酒屋」なんかでWeb検索すると、ものすごい数の結果がヒットして、このなかから最良の選択をせねばならない…などと気が重くなります。でも大丈夫、このような場合には、インターネットに転がる情報の9割はゴミであると割り切りましょう。まず全国展開などのチェーン店は除外、食べログなどのグルメサイトは営業時間や電話番号の確認用。頼りにするのは、同じような嗜好を持った「無名の個人」が記したブログや記事です。大衆居酒屋や小料理屋みたいな渋いところが好きであれば、「その土地の名前 大衆居酒屋 ブログ」などで検索します。いまどき感のあるオシャレなところが良ければ「その土地の名前 カフェ バー ブログ」など。いくつか信頼できそうなサイトを見つけたら、過去記事をちょっとさかのぼったりして、その人が訪れた店たちは間違いのない選択であることを確かめましょう。

そうして、3つくらいのお店をリストにして、第一希望から電話をかけて、希望人数や日時の相談をするのです。もし希望のお店は満員だったり、営業時間外だったりしても、落ち込まないことです。結局インターネットで調べられる情報には限りがあり、良さそうに見えたお店が案外そうでもなかったりすることはしばしばありますし、逆もまたしかりです。たまたまその土地で開催された学会や研究会に参加することになり、たまたま自分が幹事をおおせつかり、たまたま選んだお店で懇親会をするわけなのです。幾重にも重なり合った偶然が導いた縁を楽しむことが肝要です。


インハウス懇親会

自身の所属する研究機関のセミナーハウスや、場合によっては研究室などで、お手製の懇親会をすることもあるかもしれません。よりアットホームな雰囲気で、移動の時間をかけずに懇親会に移れて、費用も安めにおさえられて、セミナー本体の終了時間の短縮・延長にも対応できることが利点です。ただし欠点はやはり、幹事の負担が大きくなることです。会場や食事の準備、後片付けなど、しなければならない作業はたくさんあります。

ですが、もしあなたが、どことなく内気で懇親会で人と話すのもなんとなく苦手…と思うような方であれば、ぜひインハウス懇親会の幹事をされることをすすめます。労力に見合うリターンは確実に期待できます。

懇親会の幹事って、実は、逆説的なのですが、懇親会みたいなざわざわした場が苦手な人にうってつけの役割なのです。ただの参加者であればどことなく所在なげでも、幹事という役割があって、頭や手を動かしていると、ざわざわした懇親会会場でひとり突っ立っているような孤立した不安を感じなくてすみます。内気な人は、場を客観的に観察し、冷静に必要な手を打てるという長所を併せ持つことが多いような印象があり、ときに小学校の休み時間のような様相を呈する懇親会において、秩序を保つ重要な役割を果たし得ます。料理やお酒を出して、こぼした飲み物を拭いて、会を進行して、…というのは、実は懇親会の全体を自分がコントロールできるということでもあり、自分が居心地の良い方向 (そしてそれはおそらくほかの参加者にとっても居心地が良い) へ雰囲気を誘導していけるということでもあります。

インハウス懇親会の幹事をしていると、いろいろな人と勝手にコミュニケーションがとれてしまうという利点もあります。幹事として参加者みんなから識別されますし、気を配っていろいろ会場をまわっていると、「幹事ありがとうございます」「いえいえ」「今日の発表おもしろかったです/ところでどんな研究をされているのですか?」などと会話が勝手に進んでいくことがよくあります。まさに、内気な人にこそ幹事をおすすめします。

しかし、もしあなたが、懇親会の翌日はいつも無くした記憶に痛む頭を抱えながら見知らぬ路上で目覚めるようなパーティアニマルだった場合、インハウス懇親会の幹事はおすすめしません…。物事には適材適所というものがあります。自分の輝ける場所で才能を発揮しましょうね。





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