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この文章は,『月刊ポスドク第5号 (2016年8月発行) に寄稿したものです.編集・発行者の許可を得て,こちらに転載しました.

tsutatsuta. 2016. 青瓜とフィールドワーク. 月刊ポスドク 5:16–17.


青瓜とフィールドワーク

青瓜

四半世紀以上にわたって住み慣れた東京近辺を離れ,ポスドクとして京都に越してきて,驚いたことがひとつある.京野菜の多様さである.そのあたりの普通のスーパーにも,季節に応じて,東京ではあまり目にしなかったような京野菜が並ぶ.しかも比較的安価である.かくして私は,料理材料の主力に水菜を加え,水茄子や賀茂茄子に舌鼓を打ち,そうめん南瓜をおそるおそる茹でてみたりすることとなった.

京野菜とともに暮らすそうした生活のなかでも,ひとつ手が出せなかったものがあった.青瓜である (図1).初夏の頃から出回りはじめて,つやつやした青緑の流線型に,中身の詰まったずっしりとした重さがある.レシピをWeb検索しても,漬物がトップに出てくるほかは,これといった調理法がなさそうな感じ.冬瓜やキュウリとも違うし,頭のなかにも,青瓜に適していそうな料理のストックはない.挑戦したい気持ちはあるものの,青瓜との対決をなんとなく見送っているうちに,京都で暮らす1年目の夏はいつのまにか終わっていたのだった.


フィールドワーク

そうして迎えた京都での2年目の夏,青瓜を料理するためのアイデアは,意外なところから得られた.

私はポスドクから,マレーシアでのフィールドワークを本格的にはじめた.滞在する調査地では,現地で調達した食材を料理して,毎日の食事をつくらねばならない.市場やスーパーには,タマネギやキャベツなど日本で見かけるような野菜もある一方,見たこともない野菜も並んでいる.おそらくの空芯菜,50 cmくらいの長さがありそうなインゲンマメ,星形の断面をもったヒョウタンみたいなもの,色の薄いゴーヤらしきもの,…….フィールドワークをおいしく健康につづけるためには,こうした見たこともない野菜たちと上手につきあっていく必要がある.

ちなみに,そうしたフィールドワークでの料理を通して気づいた事実のひとつに,外見は不思議な形をしていても,包丁で切って断面を出してみれば,それが何の仲間であるかをわりとよく判別できるということがある.みずみずしさや種のつき方をもとに,似た野菜を思いうかべて,それを料理するような方法で炒めたり味付けしたりすれば,失敗することなく,おいしいおかずを食卓に載せることができる.フィールドワークのおかげで,見たこともない野菜を料理する私のスキルは確実に向上している.

さて,京都で暮らす2年目の夏,スーパーで,今年も出回りはじめた青瓜を手にとって「ふぅむ」と眺めたとき,ハッと思い出されたことがあった.ほとんど同じような野菜を,マレーシアの調査地でも見たことがある! フィールドワーク時,私はその野菜を薄く切って炒めてみたが,現地人の調査助手は,卵とじの炒め煮のようにして,もっとおいしく料理してくれていた.炒め煮の卵とじ! よしよしこれで行こう.私は躊躇なく,青瓜を買い物かごに放りこんだ.


青瓜の炒め煮の卵とじ

  1. 青瓜は種を取り,ごく薄いクシ切りにする.
  2. みじん切りのニンニクと炒める.塩少々.
  3. 料理酒と水をひたひたに加え,鶏がらスープの粉末を溶かして中火で炒め煮する.
  4. 青瓜に火が通ったら,溶き卵を流し入れ,ある程度固まるまで蓋をして待つ.
  5. オイスターソースで味をつけて,全体を軽くかき混ぜて,胡椒をふってお皿に盛りつける.

このようにして,ひとまず私は青瓜を攻略することができた.手順3の鶏がらスープのかわりに,マレーシアのスーパーで売られている“Cukup Rasa"という味付け粉末を使うと,エスニックな風味が強まるので,いちおうここでお勧めしておきたい.

青瓜は中身がみっちり詰まっていて,残りはまだたくさんある.明日はどうやって食べようかなあ…….


Section of <i>Cucumis melo</i>

図1. 青瓜とその断面.完形で長さ20 cmくらい.マレーシアで見た野菜と断面もそっくり!





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