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この文章は,『月刊ポスドク第6号 (2016年12月発行) に寄稿したものです.編集・発行者の許可を得て,こちらに転載しました.


奇跡の水

水事情

日本を発った飛行機が着陸態勢に入る頃、さてどうしようかな…と、水のことを考えはじめる。人体の70%を占めるといわれる水は、異国の地にあっても (あるいは異国の地にあってはなおさら) 欠かすことのできない重要な資源である。1食分くらい食事を抜いたって死にはしないけれど、水の場合はそうもいかない。脱水症状になれば回復のために数日は軽く潰れてしまうし、乾燥したホテルで喉をやられれば、ガラガラ声で学会発表することになったり、そのまま風邪をひいて寝込んでしまうことだってある。

にもかかわらず、水は飛行機と相性が悪い。ほとんどの場合、所持している水は搭乗検査で取り上げられてしまい、我々は水に関してはまったくの丸腰で異国の地に降り立つことになる。いかにして最初の水を調達するか、これが重要である。

しかしここに深刻な問題が生じる。空港の水は高いのである。はじめての国では物価水準もよくわからないから、ぼられる可能性だってあるかもしれない。いやまあ、高いと言ったってせいぜい数百円の違いだから、気にせず買えばいいじゃないという向きもあるかもしれない。しかしそうはいかないのである。旅行者だからって足元を見られてたまるものか、ここでそんなことを許したら、なし崩しにぼられ続けてしまうかもしれないではないか。長時間エコノミークラスのシートに詰め込まれた睡眠不足の身体はどこか緊張しており、鼻息は自然と荒くなる。


いくつかの方法

先に「まったくの丸腰で」と述べたが、必ずしもそうならない場合がある。機内で、カップ入りの水や、運の良いときにはペットボトル入りの水が提供される場合がある。機内でこれを飲んでしまうのは、はっきり言って、素人のすることである。こうした水は大事に保管しておき、機内では「Water please」とかなんとか言ってコップ入りの水をもらうべきである。そうして大事にとっておいた水を資本にして時間をかせぎ、街についた後や翌日に、妥当な値段のミネラルウォーターを購入する。

すでに訪れたことのある場所が目的地の場合には、予測も立てやすくなる。ホテルの部屋にミネラルウォーターが置いてあることがわかっているなら、ホテルまでの道程さえ乗り切れば良い。物価を把握しているなら、労せずとも「現地価格」の水を買える。知識と経験、ああ、大きな脳を持つヒトという生物の強力な武器である。

あるいは、ミネラルウォーターさえ必要ないという猛者もいるかもしれない。生水はもちろん飲めないけれど、部屋に備え付けの電気ケトルで水道水を沸騰させて冷まし、飲料水とするのである。その場合は、丈夫なペットボトルを現地調達し、水筒代わりにするのが定石だろう。しかしそうすると、何のペットポトルを買うかという別な問題も生じてくる。この問題も奥深いものであるが、本稿の主旨とずれるので深入りはしない。基本的には炭酸飲料のペットボトルが丈夫であり、香りの良い飲み物であれば上等である。(もし読者がアフリカに赴く際には、キニーネ入りのレモンソーダ"Crest"のペットボトルを強くお薦めしておく)。

学会の場合は、会場にフリーのミネラルウォーターが置いてある場合もある。水を買って会場入りしたら、実は購入の必要がなかったという失敗をおかさないよう、まずは様子を見ることが肝要である。早とちりは禁物である。


水いろいろ

ケチくさいと笑うことなかれ。1ドルを笑う学会参加者は1ドルに泣くのであるし、1リンギットを笑う海外調査は1リンギットに泣くのである。水に並々ならぬ執着を見せるのは、水を愛しているからでもある。

だいたいおもしろいことに、生活感覚に根ざしたその国の物価水準は、ミネラルウォーターの価格を基準に推し量れるという印象を私は持っている。両替価格とはまた別に、500 ml入りペットボトルのミネラルウォーターの現地価格を、日本で生活するうえでの100−150円にあたると考えて暮らすと、あくまで私の経験では、買い物関連で失敗することがほとんどなくなる。私のまだ訪れたことのないあまたの国・地域にこの法則があてはまるか、将来的に調べていきたいものである。

また、焦らずに余裕をもってミネラルウォーターを吟味することのメリットもある。私は炭酸入りのミネラルウォーターが好きなのであるが、研究会のためにスコットランドを訪れた際、売店で発泡性鉱泉水のミネラルウォーターをみつけた。価格は一般的なミネラルウォーターと変わらず、少し香りのついたシュワシュワ感が実に美味であった。もし私が明日の水を心配する身だった場合には、落ち着いて商品を眺める余裕を持てず、こうした水に出会えなかったかもしれない。繰り返すが、早とちりは禁物である。

水…ああ水。右も左もわからぬ異国の地に降り立った私は、その国ではじめてのミネラルウォーターを手にし、「Water...! Water...!」と声を上げるのである。




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