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この文章は,『Anthropological Letters第4巻1号 (2015年8月発行) に寄稿したものです.人類学若手の会の許可を得て,こちらに転載しました.

蔦谷匠. 2015. フォーラム「研究の方法論」—2— 文献管理. Anthropological Letters 4:7–9.


フォーラム「研究の方法論」—2— 文献管理

研究の方法論について、ほかの人のやり方を知りたいなと思い、フォーラムというかたちで連載企画をはじめてみました。論文の書き方、文献管理、図の作り方、学会発表のコツ、モチベーションの維持といった、研究という営みの重要なプロセス (研究内容のような成果でなく) について紹介していただきたいなと思います。というのも、研究者として仕事をつづけていくうえでもっとも大切とも言えるところなのに、こうした方法論を体系的に学ぶ場は、日本の高等教育では少ないと思うからです。ほかの人の方法を知ることで自分の方法を精錬させられますし、自分の方法論を言語化することで新しい発見があるかもしれません。


1. 読むべき文献に行き当たる

自分が読むべき文献をどのようにして知るか?…もしかしたら、これがいちばん難しい問題かもしれません。私の場合は、主に以下3つの方法で文献に行き当たります。

  1. 論文や書籍の引用文献をたどる。確実かつスタンダードな方法でしょうか。
  2. 関連するジャーナルの最新論文を定期的に調べる。私はRSSリーダーを使っています (GoogleReaderなき後はFeedlyに移行しました)。RSSを吐かないジャーナルには、RSS生成ツールなどを使って対処しています。最近はメール通知をしてくれるジャーナルも増えてきましたね。
  3. 関連するキーワードによる検索を駆使する。あまり知らない分野の文献や、論文でなく書籍を探すときが主でしょうか。英語論文ならGoogle Scholar、日本語論文ならCiNii、書籍ならOPACが便利です。

ついでに最近、Google Scholar Citationsの「マイアップデート」という機能が、私のなかで評価急上昇中です。自分の書いた論文の引用文献から、おすすめの論文が自動的にアップデートされていきます。(1) のスコープ外だったジャーナルに発表されたため把握できなかったが、自分の研究ととても強く関係する論文などを拾い上げることができます。


2. 読むべきかどうか判断する

まずはタイトルや引用のされ方で、その論文にアクセスすべきかどうか判断しています。アクセスした次には、電子データの段階で、読むべきかどうか判断します。アブストラクトをささっと読むか、図を見るか、Ctrl+Fで特定の単語を検索することが多いでしょうか。読むと決めたら、私は論文をプリントアウトします。


3. 緩急つけて読む

プリントアウトした論文には、論文執筆と実験・測定時に役立ちそうなところ、すぐは役立たないが次の研究テーマなどにつながり得る、いま気になっているところ、を鉛筆などでマークしておきます。重要なのは、専門どんぴしゃな論文でもそうでない論文でも、この段階では「とばし読み」をすることです。熟読しないし、内容も6-7割しか理解しませんが、どこが自分にとって大事なところかだけはしっかり判断します。

こうしてマークした大事なところは、日本語に訳してテキストにまとめておきます。内容をきちんと理解するのはこの作業をしているときです。大事さの度合いが高いほど、分量や逐訳度合いが大きくなります。文中の主張を支える引用文献もしっかりわかる形にしておきましょう。このまとめが、研究の背景知識を支える実質的な財産になります。

なお、とばし読みはどこでもできるので、気になる論文はいくつかプリントアウトしておいて、移動中とか旅先とか、通常の仕事環境にないときにまとめて処理することが多いです。そうした場面でマークした論文は、落ち着いて机の前に座って仕事ができるときに、こつこつとテキストに落とします。私はこのとき一緒に (1-1) の引用文献たどりをすることが多いです。


4. ストレージ

読んだ文献はかならず再読できる状態にしておきます。論文だったらPDFを保存しておき、書籍だったら購入するかスキャンを取ります。スキャンの際には、目的の部分だけでなく書籍情報のページなども忘れずに。引用の際に必要な情報が詰まっています。論文本体にはタイトルや書誌名の英語表記がないフォーマットの日本語論文雑誌は意外に多いため、英語目次のページもきちんと確認してスキャンしておきましょう。

私の場合、論文や書籍のPDFはDropboxに入れて、どの端末からでも確認できるようにしてあります。セミナーなどで、手持ちがスマートフォンしかないけれど、目の前で話題になっている研究についてはあの論文を確認すればわかるのに!といったときに便利です。ストレージについては、また改めて、このフォーラム企画でとりあげたいと思います。

なお、プリントアウトした論文は、筆頭著者のアルファベット順にファイリングしています。必要なくなったA4封筒それぞれにAからZまでの文字を書いて、筆頭著者の苗字の先頭のアルファベットに対応する封筒につっこんでいきます。数が増えて納まりきらなくなったら、「S」→「Sa/Sk」→「Sa/Sf/Sk/Sr」などとどんどん枝番化していきます。(図1)


Envelopes containing read papers

図1. 読み終わった論文は筆頭著者のアルファベット順に、封筒に入れて保管。


5. 情報を構造化する

ここまでのプロセスで得たものを、検索や呼び出しが容易なかたちにして保存します。

文献そのものと文献情報に関しては、文献管理ソフトを使うのが手っ取り早いでしょうか。私はMendeleyを使っていますが、ほかのフリーのサービスだと、ReadCubeが良いという意見を聞きます。「野良研究者」になったときのことも考えて、有料のEndNoteなどは使わないほうがいいのかなと考えてます。

Mendeleyでは、論文PDFを放り込むと、おそらくOCRとWeb検索によって、そこそこの精度で文献情報を自動で補完してくれます。とりあえず入手したけど読むあてのない論文はそこで終わり、将来読むかもしれない論文は、タイトルと著者くらいはきちんと入力されていることを確認し、自分の論文で引用する文献はきっちり正確な情報を入力します。

プロセス3でまとめた日本語訳テキストは、Mendeleyの各文献に対応する「メモ」フィールドにコピー&ペーストして保存しておきます。

Mendeleyは閲覧と日本語検索の機能がいまいちなので、もうひとつ構造化の作業をします。プロセス3でまとめたテキストを、論文情報とともに、Evernoteにまとめていきます。適当な粒度のテーマを決めてノートをつくり (たとえば、人類進化、骨置換、オランウータン、など)、もっともマッチするノートにコピー&ペーストします。英語タイトルや著者がわかる論文はMendeleyで検索をかければすぐにたどりつけますが、あのことについて書いてあったあの論文…部分訳してまとめたんだけどなあ…といったときに、関連する日本語の単語で検索をかけたり、テーマごとに探したりできるので、こうした方法でEvernoteにも論文情報をまとめておくと非常に重宝します (むしろMendeleyの「メモ」はバックアップ程度の位置づけです)。

また、Evernoteへのまとめにはもうひとつおもしろい効果があります。何年も前に読んだ論文のことはいちいち覚えていられないのですが、査読者からの指摘があったり新たな研究に乗り出したりして、◯◯関連の論文を手っ取り早く知りたい!というときがあります。そういうとき、項目ごとにEvernoteにまとめられた日本語訳テキストをささっと見ていくと、昔読んだけど存在を忘れていて、しかも今必要な情報がちょうど載っている論文、などに運良く再びめぐり会えることがあるのです。


参考文献

デビット・アレン (田口元 監訳). 2008. はじめてのGTD ストレスフリーの整理術. 二見書房. —文献管理と直接は関係ありませんが、Getting Things Done (GTD) という整理法を紹介した本です。私は別にこの方法をとっているわけでもないのですが、考え方は参考になるかもしれません。



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