この文章は,NPO法人「FENICS」の2018年3月25日発行のメールマガジンに寄稿したものです.編集・発行者の許可を得て,こちらに転載しました.
コペンハーゲンの「ワーク」と「ライフ」
2017年11-12月から2018年3月にかけて、夫婦そろってデンマークに渡航し、コペンハーゲン大学で研究を実施した。妻はGeoGeneticsセンターへ古代DNAの研究に、私は自然史博物館へ古代タンパク質の研究に。ラボで実験をして得られた結果を解析するのだが、コペンハーゲン大学には世界最高峰のクリーンラボがあり、先端的な研究を実施している研究者が集まり、古代分子の研究をリードしている。「そこでしか得られない知見がある/そこでしかできない研究がある」場所を「フィールド」と定義するなら、今回、研究はほとんど実験室で実施していたけれど、これも広義のフィールドワークになるであろう。とはじめに言い訳がましいことを書いておく…
デンマークの人びとは「ワーク」だけでなく「ライフ」もとても大事にする。また、男性であってもよく子育てをしている。15時を過ぎると子供の送り迎えをする父親や母親がそこかしこにおり、カフェ併設のパン屋さんに立ち寄って、一緒におやつを食べながら、子供に絵本を読み聞かせたりしているのを見た。朝の通勤時間帯には、ベビーカーを押した父親が電車内によく見られた。
通勤と言えば、コペンハーゲンは自転車都市でもある。しっかり整えられた専用の道を、老若男女かかわりなく、たくさんの人が自転車に乗って通勤してくる。クリスチャニアバイクと呼ばれる、台車並みに大きな前カゴのついた自転車もよく見かけた(写真参照)。クリスチャニアはコペンハーゲンの中にある「自治地区」で、このタイプの自転車はここの発祥なのだとか。クリスチャニアバイクの台車のなかに子供を2人くらい乗せて、送り迎えの母親や父親が、一人乗りの私をさっそうと追い越していくのだった!
大学でも、多くの人びとは8-9時くらいに研究室に来て、1時間くらい同僚とおしゃべりしながら昼食をとり、子持ちの人はときには15時くらいで、独身の人でも17-18時には帰宅するのが一般的なワーキングスタイルだった。もちろん休日には、ほとんどの人が大学には来ない。上の階の研究室の男性PIは、子供の送り迎えのために、15時くらいに自転車に乗って帰ってしまうこともしばしばだった。また隣の研究室の女性PIは、妊娠中の大きなお腹を抱えながらはつらつと仕事をし、大学に連れてきた上の子供を横で遊ばせながら、お茶部屋で同僚とディスカッションしたりもしていた。
こんなに短い時間で、どうしてあんなにインパクトのある研究を発表しつづけられるのか不思議に思ったけれど、夜や休日に同僚にメールを送ると、間髪おかずにすぐに返信が来たりすることもよくあった。どうやら家でも仕事をしているらしいのだった。大学に長い時間しばりつけられず、柔軟な働き方ができるのかもしれないと想像する。
短期間の「フィールドワーク」では良い面しか見えてこないのかもしれないけれど、誰もがポジティブにワークとライフを回していて、なんだか良いなあと思った3ヶ月間であった。
クリスチャニアでみつけたクリスチャニアバイク