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この文章は,NPO法人「FENICS」の2016年9月26日発行のメールマガジン (会員限定) に寄稿したものです.編集・発行者の許可を得て,こちらに転載しました.


眠るコウモリ

私は、オランウータンの調査地であるダナムバレイ森林保護区(マレーシア・サバ州)で研究を進めている。ダナムバレイは現地の財団によって管理されており、この財団の運営する宿泊施設(ボルネオ・レインフォレスト・ロッジ)が保護区内に建っている。ロッジの周囲には歩道があり、一部の歩道の脇には景観のために手入れされた植物も生えている。

いつものようにオランウータンを追跡調査していたある日、そうした植物のひとつを指して、現地のガイドが「Takumi(私の名前)、この葉っぱのなかにコウモリがいるぞ」と言う。んん?コウモリ? その植物(バショウ科とのこと)は、高さ1−2 mくらいで、バナナの葉のように大きな葉っぱが、ウコンのように根本から何本もシュッシュッと生えている。アイスクリームのコーンのようにくるくると丸まった葉をそっと手にとって、現地のガイドは中を見るようにうながす。

上からのぞきこむと、もふもふした黒くて小さなものが中にいて、それにはたしかにコウモリのものらしい耳や鼻がついている。「あらまあ」と思いながらガイドと顔を見合わせ、「ホントだねえ、ありがとう」と言いながらカメラを取り出そうとする。しかし、その小さなコウモリは、われわれの気配に気づいたのか、写真に撮られる前にそそくさと、丸まった葉っぱから飛び去っていってしまった。

ちなみに、マレーシア語の感嘆の言葉は「Alamak」であり、日本語の感嘆の言葉「あらまっ!」と非常に似通って聞こえる。はじめて調査地を訪れた日本人研究者が、現地の調査アシスタントが「Alamak!」と言うのを聞いて、「これは誰かが教えたのですか…?」と訝しげに尋ねてきたこともあった。

さてそれ以来、その植物の丸まった葉を見かけるたびに中をのぞいてみるものの、未だに再びコウモリをみつけることはできていない。黒くてもふもふしたその寝姿を思い出すにつけ、しっかりした大きな葉っぱに包まれてすやすや眠るコウモリが、なんだかとてもうらやましく思えてくるのであった。


謝辞

この植物に関して,久世濃子さんとOla B.B.さんにいろいろと情報を提供していただきました.この場を借りて感謝申し上げます.


Leaves of Musaceae

コウモリの潜んでいた植物





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