考古魚骨の前処理法についての検討
- 考古遺跡より出土した魚骨からコラーゲンを抽出する方法 (安定同位体分析のための前処理) について検討した専門的な論文です。
- 脱脂のステップがあってもなくても、得られる値は同様でした。
- 安定同位体比に有意差は見られませんでしたが、脱灰前ではなく脱灰後にNaOH処理を適用すると、埋没中の汚れがよりよく除かれるようでした。
背景
過去のヒトや動物の食性を復元する安定同位体分析の研究では、骨から抽出したコラーゲンタンパク質がよく分析対象になります。哺乳類の骨に関してはこれまでさまざまな研究で、コラーゲン抽出法が比較検討されてきました。しかし、哺乳類とはすこし異なるミクロ構造をもつ魚骨については、これまでほとんど研究がありませんでした。
そこで本研究では、考古遺跡から出土する魚骨からのコラーゲン抽出とその安定同位体分析結果について、以下2点を検討しました。
- 脂質を除く脱脂のプロセスは必要か?: 魚骨は脂質を豊富に含んでいますが、多くの有機物が分解されたあとの考古魚骨でも、わざわざ除かねばならないくらいの脂質が残っているか。
- NaOH処理は脱灰の前と後のどちらにすれば良いか?: 考古の骨には土壌由来の汚れが付着しており、それを除くためのNaOH処理が必須です。多くの研究では、骨の無機質を溶かしてコラーゲン骨格を露出 (脱灰) させた後にアルカリを作用させていますが、一部の研究では脱灰前に作用させています。どちらが良いのでしょうか。
対象・方法
北海道の礼文島にある浜中2遺跡から出土した、2700–1100年前頃の魚骨を利用しました。この遺跡からは例外的にたくさんの魚骨が出土し、また1年を通して寒冷であることから、保存状態も非常に良好です。
結果・考察
脱脂をしてもしなくても、得られた安定同位体比などの指標には、意味のある違いが見られませんでした。NaOH処理にも脱脂の効果があることから、この結果をもって考古魚骨には脂質が残存していないということはできませんが、少なくとも浜中2遺跡の魚骨については、脱脂はしてもしなくても結果は変わらないようです。
NaOH処理を脱灰の前にしても後にしても、得られた安定同位体比などの指標には、単独では、意味のある違いは見られませんでした。しかし、複数を組み合わせて評価すると、NaOH処理を脱灰の後にすると、保存状態が比較的良くないサンプルで、汚れがよりよく落とせているようでした。
論文情報
雑記
浜中2遺跡の発掘には2014年から参加していますが、本当に魚骨がたくさん出てきます。たまに、背骨などがきれいにそれぞれの位置を保った状態で出土することがあります。ある程度肉がついた状態のまま土中に埋まり、それがそのまま現代まで埋没していたのだなあ…と思うと、なんだか感慨深いものがあります。
写真は、そのような魚骨の一例 (2017年8月撮影).