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過去1万年間のヒト集団における離乳年齢



背景

生物濃縮により,母乳では食物に比べて窒素同位体比 (δ15N値) が増加するため,小児体組織δ15N値は,授乳期間中に高い値を示し,離乳過程で低下し,離乳が終わると成人と同程度の値に落ち着きます.この原理を利用し,人類学・考古学では,発掘された小児人骨について,歯の形成・萌出状態から死亡年齢を推定し,それぞれの骨コラーゲンδ15N値を測定して,過去の人類集団の離乳年齢を復元する研究が行なわれてきました.しかしデータの解釈が主観的で研究ごとに異なっており,復元された離乳年齢は統一的に比較されてきませんでした.

そこで本研究では,新たなデータ解析手法を開発し,過去の人類集団で報告された窒素同位体分析の結果をメタ解析しました.



対象・方法

まず,先行研究で報告された数字から,小児骨コラーゲン置換速度の年齢変化を計算しました.この計算値を組み込んで,離乳にともなう小児骨コラーゲンδ15N値変化を数理モデルで記述しました.そして,このモデルと近似ベイズ計算を利用し,事後確率つきで離乳年齢などを求めるR言語のプログラム (WARN: Weaning Age Reconstruction with Nitrogen isotope analysis) を開発しました.

開発したプログラムを,世界中で報告されている39の古人骨集団 (約8.5千–200年前) のデータに適用し,離乳年齢や離乳食δ15N値を計算しました.得られた結果は,民族学で報告されている現在の伝統的社会における離乳年齢のメタ解析結果と比較しました.



結果・考察

古人骨集団の離乳開始年齢は1.1±0.8歳で,現代民族集団の0.5±0.5歳より有意に遅い年齢となりました.しかし,これは同位体分析と参与観察の方法論の違いに起因する差 (artifact) であると考えられます.

離乳終了年齢は2.8±1.3歳で,民族集団とのあいだに有意な差は見られませんでした.また,時代による一貫した離乳年齢変化は認められませんでした.ヒトの離乳は他の大型類人猿より早いと考えられていますが,この離乳終了年齢の結果は,完新世 (約1万年前から現在) の初頭にはすでにヒトの離乳が早期化していたことを示唆します.

成人女性に対する授乳期間中の小児のδ15N値増加は平均2.4±0.9‰で,現代人で報告されている2–3‰と整合的な値でした.

平均で見ると,離乳後の小児骨δ15N値は各集団の成人骨δ15N値より0.5±0.6‰低くなりました.これは,子供の成長による正の窒素バランスのためか,一般に低いδ15N値を示す植物質食物が離乳食として広く用いられていたためと考えられます.また,小児骨でのδ15N値低下は非狩猟採集集団のほうが大きく,狩猟採集を生業としない集団のほうが,離乳食にδ15N値のより低い食物 (植物など) をより多く使っていた可能性も示唆されました.



論文情報

Tsutaya T, Yoneda M. 2013. Quantitative reconstruction of weaning ages in archaeological human populations using bone collagen nitrogen isotope ratios and approximate Bayesian computation. PLoS ONE 8: e72327.


参考文献

和仁皓明 (雪印乳業健康生活研究所 編). 1999. 離乳の食文化–アジア10か国からの調査報告. 中央法規出版, 東京.


雑記

ええとですね,開発したR言語のパッケージ名WARNには,赤ちゃんが泣く声「わーん」のしゃれがかけられていたりします.

下の写真は,1.5歳と推定される小児頭蓋骨のレプリカ.頭頂部にまだ大泉門が開いているのがわかります (生後18–24ヶ月で閉鎖します).

Replica of 1.5-year-old subadult skull




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