この文章は、NPO法人「FENICS」の2020年9月25日発行のメールマガジンに寄稿したものです。編集・発行者の許可を得て、こちらに転載しました。
概要・準備
生後1年4ヶ月の子供を連れて、地球の裏側まで調査に行ってきた。この子連れフィールドワークについて、5回に分けて書いてみたいと思う。
まずはフィールドワークの概要から。場所はペルー、内容は発掘された古人骨の整理とサンプリングである。南米のアンデス高地には古くから文明が栄え、日本の研究者たちによる発掘調査や現地での教育が長らく続けられてきた。今回の調査では、ペルー北部の標高約2300 mにあるクントゥル・ワシ遺跡のふもとにある博物館にて、発掘・清掃され保管されている古人骨を整理し、そのなかから分析に用いるものを選定する作業を行なった。
もともと、古代DNA分析を専門とする妻がこのプロジェクトに参画しており、プロジェクトリーダーや共同研究者がフィールド入りするのにあわせて、2020年の2−3月に調査をすることが決まっていた。当初私はこのプロジェクトに参画してはいなかったものの、年代測定などの分析に用いる試料の選定のために妻から依頼を受け、調査に同行することになった。私たちのあいだには当時1歳4ヶ月の子供 (まだ授乳中) がおり、約2週間の調査に連れて行くこととなった。男性2名、女性1名、わたしたち家族と、総勢6名での大所帯の調査となった。
子連れフィールドワークの実施にあたり、私たちのことをもっとも気遣ってくださったのが、今回の調査を実施された共同研究者のみなさまだった。妻も私も南米でのフィールドワークは初めてだったこともあり、子供に負担の少ない旅程をいくつも提案してくださり、現地でもあれやこれやと気遣ってくださり、本当にいろいろとお世話になった (詳細は次回以降)。みなさまには感謝してもしきれない。
一方の私たちも、子連れフィールドワークの実施が決まった後、そのための練習として、子連れで国内外の旅行に出た。旅先で子供がインフルエンザを発症したり、子供から感染った風邪で親がダウンしたりと貴重な経験を経て、私たちは以下のような準備をするに至った。あとはその場その場で対応すれば良いかな、と夫婦そろって楽観的な気持ちで臨んだけれど、まだまだ考慮したりないところがあったことに後ほど気づかされたのだった。(“→”の先に実際どうだったかを記した)
- パウチの離乳食と粉ミルクをたくさん用意しておく。現地の食べ物が口に合わなかった場合、調理せずにすぐ食べさせられる慣れた味のパウチの離乳食は重要な栄養源になる。また、体調不良になると母乳と粉ミルク以外受け付けなくなる。→ 実際、子供は食べ物をほとんど受けつけず、パウチばかり食べていたため、用意してきた分でも足りなくなった。また、粉ミルクは寝かしつけの際に重宝した。
- 紙おむつは1日5−7枚見当。この概算のもと、1つのスーツケースの半分は紙おむつに占領された。→ しかし見当は外れ、1/3くらいは使わずに持ち帰ることとなってしまった。さらに、紙おむつは調査地にも売っていた。環境負荷が大きい紙おむつはあまり使いたくなかったものの、おむつなし育児を実施できなかったのが心残り。
- ベビーカーは持っていかない。便利といえば便利だけれど、道路が整備されていないところでは荷物が増えて邪魔になる。子供もまだ8 kgくらいと軽めだったため、抱っこひもだけで対応することにした。→ ベビーカーを使えるような場面はなかった。唯一「あったら良かったな」と思ったのは、空港カウンターでの待ち時間だけ。
- 移動中に退屈になったときのために、iPadに子供用のアプリをたくさん入れて携帯していく。→ それに加えてアナログな暇つぶし (子供用の本やシール) も重要だった。
- 子供が普段からよくかかっていた風邪に対する薬を持っていく。→ 結局は使わずに済んだけれど、解熱剤や抗生物質があるとすこし安心する。
- 国際線の飛行機では乳児用バシネットを事前に予約しておく。航空会社に電話したりして念を押す。→ これがあるだけで飛行機移動がだいぶ楽になる。しかし、アメリカーペルー間の路線では、事前に連絡が来ていないとのことで利用できなかった。
(つづく)
調査地の景色。これまでの遠近感が揺さぶられる素晴らしい眺めだった。